人類が「ビットコイン」という電子記録の方法を手にして、早12年が経過しようとしています。
ここからビットコインは、どこに向かうのでしょうか?
この記事では、データや世の中の流れなどから考えて、ビットコインが到達する最終形態を思いつくままに書いてみたいと思います。
計算能力を集積するための手段
まずは現時点のビットコインを取り囲む関連指標を確認しておきましょう。
下の表は、2017年4月1日から2020年5月現在まで、およそ3年間の比較可能なデータを並べたものです。
BTC価格自体は増加率800% ~ つまり9倍に到達をしていることが分かります。
比較対象としてはゴールドが分かりやすいでしょう。
同期間中に36%の値上がりを実現しているゴールドは、法定通貨の流通量(M2)が32%増加したことを真正面から反映しています。
ビットコイン価格の上昇は、法定通貨の稀釈だけでは説明ができないレベルにあるとも言えます。
その一方、0.01BTC・・・約1万円以上を格納している有効アドレス数820万件という数字は、100%の増加 ~ 2倍にしか至っていません。
インターネット接続が可能な人口を40億人、かつ一人1アドレスと乱暴に仮定すれば、820万件は500人に1人の割合です。
もちろん多くの人は取引所に預けたままでアドレス数に反映をされません。
ただ預けたまま=いつでも売る投機目的の短期ホルダーと仮定すれば、長期的な値段形成のファンダメンタルズとしては無視して良いでしょう。
つまり1/500人という圧倒的少数の人が保有している=伸びしろの極めて大きな通貨であるという考え方は否定できません。
一方で(ブロックチェーン上の)取引数はマイナスへと転落。
送金技術の改善でデータサイズが圧縮されたことは事実ですが、価格と比較して取引の数は絶望的なほど伸びていません。
もちろん使えば課税される税制も利用を遠ざけている部分もあります。ただそれを差し引いても通貨としては「大して使われていない」ことが明らかです。
刮目すべきはハッシュレート(ブロックチェーンを動かすために投じられている計算能力)でしょう。約25倍に増加しています。
これらのデータから、以下のことが分かります。
〇 ビットコインの価格上昇は1/500人という圧倒的な保有者の希少性(伸びしろの大きさ)が主たる原因と言える
〇 通貨としての価値交換手段には使われていない
〇 圧倒的な伸びはハッシュレート(計算能力)に観測されている
つまりビットコインがもっとも得意とする機能は、計算能力を収集することだとも言えます。
偽物と本物を区別~信用を担保する技術
2019年2月、NVIDIAが開発した人工知能を使い、極めて自然な表情をもつ実在しない人物の画像を生成する技術が公開されました。
まるで本物–実在しない人の顔写真をAIで生成するウェブサイトが公開(CNET)(外部リンク)
もともと、フェイクニュースのほうが正規情報よりも情報伝播が早いという問題が露わになってきた頃。
人工知能がますます本物に近い偽物を量産できる体制が整ってきたとも言えます。
Hey CEOのYusuke Sato氏は、以下のコメントを残しています。
2020年2月からアウトブレイクしたコロナウィルスは、私たちの生活様式を否が応でも「サイバー空間寄り」に大きく動かしたことは事実でしょう。
そしてサイバー空間は当然のようにフェイク情報天国。
まさに真実と虚構とを見分けるコストは、劇的に上昇せざるを得ないことが明らかです。
今からは「偽物・ウソ・改ざんの無いことを証明する技術」、言い換えれば「信用を担保する技術」が必要とされることになります。
ではその信用はどうやって担保するのか?
少し過去を振り返ってみましょう。
サブプライム問題を引き起こした1つの原因は、不良債権化することが明らかな組成商品を、公平であるはずの各付け機関が不当に設定していたことでした。
格付け機関に留まらず、私たちがこれまで信用に足ると思っていた企業や団体がデータの改ざんに手を染めた話など、掃いて捨てるほどあります。
ビットコインがもたらした変化は、信用の担保を特定の団体に負わせること無く、分散ネットワークの参加者が行うということでした。
すべての取引は公開台帳(ブロックチェーン)に記載され、新しい取引にウソが無いことを証明するため、ネットワーク参加者は高度な計算能力を提供する。
その見返りとしてブロック採掘報酬のビットコインが与えられます。
余談ですが、ときおり「ブロックチェーンの未来には希望を感じるが、ビットコインには無い」という論調を目にすることがあります。
中央の管理者無しでネットワークの参加者が計算能力を供給し、信用を証明するのがブロックチェーン。
その計算能力と引き換えに参加者が得るのは、採掘報酬としてのビットコインです。
経済的なインセンティブが無ければ、誰も自発的に計算能力を供給することはありません。
ミツバチが花の間を飛び交って受粉活動をするのは、蜜という報酬を得ることができるからです。
「ブロックチェーンは必要だがビットコインは不要」という話は、「ミツバチが提供する受粉機能は必要だが、蜜は不要」という話と同じです。
蜜を提供しない花に降り立つミツバチなどいないのです。
これらを考えてみても、ビットコインが分散コンピュータの計算能力を集積する有効なツールであることは明らかですね。
ビットコインは誰でも利用できる信用証明として使われる
すっ飛ばして結論に行きましょう。
ビットコインの最終形態は、誰もが利用できる信用証明として使われることになると思います。
たとえばヤフオクで売買したり、エアビで宿泊したり、電車で座席を譲ったり、自動車で歩行者に道を譲ってあげたりする。
そういう活動から得た評価は独自のチェーン上に記録をされ、それらが最終的にビットコインのブロックチェーンに接続をされていく事になるでしょう。
既にオンラインゲームでは、異なるゲーム間でアイテムを行き来させる仕組みも出来上がっているようです。
個々の活動がすべて公開台帳に記録されれば、自分が取っている行動が全体に対してどのような影響を与えるのか、即時に効果測定が可能になります。
今の社会構造は、他を騙して抜け駆けした方が経済的にインセンティブが得られる部分の方が大きいでしょう。
だからフォルクスワーゲンはディーゼルエンジンの検査で不正を働き、神戸製鋼は検査データの改ざんを行い、他にも大量の粉飾事件があるわけです。
全体利益に直結する行動が自分の利益を最大化する
次の社会は、自分が取る行動の結果が全体としてのパフォーマンスを向上させるものであれば、それが個人の評価として記録・蓄積される仕組みになります。
例えば自動車を運転していて、自分が道を譲るのに15秒ストップする。そのことで50台の自動車が3秒ずつ時間を短縮できれば、50台×3秒=150秒を生み出すことになります。
そのような経路で得られた数値としての「信用」が、最終的には通貨を置き換えていくことになるでしょう。
ビットコインは、その仕組みを実現するために必要な途方もない計算能力を調達し、維持するための道具なのでは無いかと考えています。
もちろん、悪い方向に進めば超監視社会のディストピアです。
街頭に配置されたカメラで顔面認証を行い、すべての行動が個人情報と接続される。国に不利益のある発言が記録・追跡される。
住みたい世界観では無いですね。
私たち人間は、これまでも新しい道具・技術・力を手に入れるたびに、その使い方で苦労をしてきました。
技術が問題なのでは無く、使う人間の側の能力・モラル・抑制力が問われるのです。
ビットコインを世に産み落としたSatoshi Nakamotoは、私たちに「この新しい技術を使って世の中をどうするかを君たちで考えろ」と言っているように思えて仕方ありません。
自分自身は「他の人に提供した価値の総量が自分に返ってくる」という考え方を信じている一人です。
こんな記事を書いたり、有料の講義を無料開放したりしているのも、そうした考えが背景にあります。
それぞれの個人が全体の利益を考えて行動し、その貢献が正しく計測されて信用クレジットとしてチェーン上に記録され財産となる。
そんな活用がなされていくなら、ビットコインにとっても本望かもしれませんね。
2020/05/21追記:
この記事で書いたことを動画で説明してみました。