ビットコインと上手に付き合うための3つの視点 (ビットコイン研究所:最終回)

ビットコイン研究所最終回。本質的・長期的・多面的という3つの思考フレームワークで投資判断を構築。8年という時間軸、72の法則、減少する民主主義国家(88カ国)、バングラデシュ銀行事件などの具体例から、価格変動に惑わされない投資哲学を解説。ホワイトペーパーの重要性と非中央集権の価値を再考する。

いつも研究所のレポートを読んでいただきまして、ありがとうございます。

既にビットコイン研究所さんより連絡がありましたとおり、運営会社さんの変更もあり、私のレポートは今回で最終となります。今までどうも拝読いただきまして、ありがとうございました。

さて最後は、ビットコインと長く付き合うにあたり、自分が重視していることを書いておきたいと思います。

こういったことを考えておけば間違いが少ないのではないか、というお話です。

投資判断の3つのチェックリスト

自分自身が物事を考えるには、基本的に3つのチェックリストを準備しています。

  • 本質的に考える
  • 長期的に考える
  • 多面的に考える

すごく単純なのですけれど、基本は上記3つです。

これをビットコインに当てはめると、どうなるのか。順番に見ていきましょう。

① 本質的に考える:迷った時はホワイトペーパーを読んでみる

何事も本質を把握しておくことは、とても大切です。

これまでも、そしてこれからも、仮想通貨の中では様々なトークンやアルトコインが登場します。今まで見たこともないような新規性の高いプロジェクトも出てくるでしょう。

そしてそれらはほとんどの場合、サトシ・ナカモトの哲学やビットコインの素晴らしさを称えるところから目論見書が始まります。

しかしながら同時にビットコインに欠けている点を訴求し、それを改良し100倍良くしたもの、という打ち出し方をするはずです。

「ナンバーワン」の圧倒的な強さ

マーケティングの世界でもそうですが、「何かを改良したもの」というのは1番手にはなりません。

日本で1番高い山と聞けば、皆さんすぐに富士山を思い浮かべると思います。しかし2番目の高さは?

なかなか名前が出てこないのではないでしょうか。

答えは北岳で標高3,193mです。そしていくら北岳が富士山よりも圧倒的に登りやすいと訴求しても、富士山には絶対に叶いません。

最初にナンバーワンの座を確立した絶対的な王者。そのカテゴリーの中では、もはや2番手とは次元が違うほど強いのです。

【図1:過去のアルトコインの価格推移(例:複数の主要アルトコインの対BTC比率)】 

多くのアルトコインは数年単位で見ると、ビットコインに対して、ほとんどの価値を失っています。

アルトコインを売買すること自体は、まったく悪くありません、利確さえできれば。

ここでお伝えしたいのは、こういうことです。

自分の大切な資産を別の形で保有する。現金の希釈化に対してのヘッジをする。そういった目的であれば、ずっと保有し続けることができる資産である必要があります。

ビットコインはその条件に当てはまります。

しかし機能性を歌った新たなアルトコイン、Web3などの文脈で語られる新規性の高いコイン、今後出てくる新たなデジタルトークン。これらは長期保有には向きません。

よほどインサイダー情報を持っていて安く買え、運営が値段を吊り上げたところで売り抜けられる技術があれば別です。

でもずっと保有するものではない。

これまでのアルトコインの様々な屍を見てきた方であれば、ご理解いただけるのではないかと思います。

ホワイトペーパーに立ち返る意味

ビットコインよりも優れていると思われるトークンが出てきた場合。

そんな時は、一度ビットコインのホワイトペーパーを読むことをお勧めします。

参考:ビットコインホワイトペーパー

https://bitcoin.org/bitcoin.pdf

もちろん書かれていることを全て理解するのは至難の技です。私も最初に読んだ時に理解できたのはおそらく1割位でした。

しかし開発者がどのような考えでビットコインを作ったのか。何を目的としてどのような概念で動いているのか。まずは理解することは絶対に損にはなりません。

自分はそのホワイトペーパーを読んだ時、秘密性と公開性を両立している姿に感動しました。

公開鍵と秘密鍵という2つが存在している。どれだけ公開鍵が人にばれても、自分の秘密鍵を持っていればそれが安全である。そして公開鍵がある限り、すべてのトランザクションは紐付けられて透明で、誰もが即時に追跡可能である、、、というところですね。

もちろん人それぞれ感銘を受ける場所は違うと思いますし、受けないかもしれません。

それでもやはり、オリジナルの製作者の書いたドキュメントをまずは読んでおく。これは損にならないと考えます。

② 長期的に考える:8年くらい将来から今を逆算してみる

やはり長期的な視野を持ち続けることは大切です。足元の状況に右往左往しないためにも。

しかし、長期といっても50年先を考えるのは難しい。かといって2年先が長期かというと、そうでもない。

ビットコインに限らず投資という点で捉えるなら、おそらく8年位で考えておくのが良いのではないでしょうか。

8年前を振り返ると見えてくるもの

現在2025年ですが、8年前というと2017年です。

当時のビットコインは、CMEの先物が上場するということで盛り上がりました。18,000ドル近辺まで行き、その後2年間程度は下落の道に陥り込み、3,000ドル台まで下がることがありました。

このように大きなアップダウンはあれど、結果的には右肩上がりに価格が推移してきています。

当時、17,600ドルでビットコインを買った人は、天井のド高値で掴まされたと考えていたはずです。しかしそのまま放っておけば、今から振り返ればずいぶんな安値で購入できたことになります。

これを単なる結果論と考えるか。それとも同じことが将来起こると考えるか。そこで、ずいぶんとアクションは変わってきます。

8年後の世界から逆算する

現在は2025年ですが、8年後といえば2033年です。その時にどのような世界観になっているのか。そこから逆算して今を振り返ると良いかもしれません。

例えば人口動態なら、今から8年後もかなり正確に予測できます。開発されている技術も、ある程度は着地点が見えてきます。

そして投資に関して言えば、8年間の積み上げはかなり大きなものになります。

72の法則で考える資産の成長

皆さんは72の法則というのを聞かれたことがありますでしょうか。これは資産が2倍になるために、どれだけの利回りが必要かを簡単に測るものです。

シンプルに言い換えると、「72÷年利回り(%)=資産が2倍になる年数」という計算式です。

もしも72の半分である36%の利回りを取ることができるなら、2年後には資産が2倍になるという計算です。

ビットコインが今後何%程度の成長を続けられるのかは誰にもわかりません。

しかし2025年現在で過去を振り返れば、平均利回りで約50%程度の成長率を維持しています。

これが今後そのまま維持されるのか。それとも25%に下がるのか。10%に下がるのか。誰にもわかりません。

しかし72の法則を当てはめてみましょう。

もし年間利回りで9%ずつビットコインが上昇すれば、8年後には2倍になっています(72÷9=8年)。

今のビットコインの成長を見れば、ずいぶん保守的な見方かもしれません。

しかし8年後に200,000ドルを超えているビットコインを想像できるなら、今の110,000ドル前後のビットコインが比較的安価に思えるかもしれません。

さらにもしもドル円が200円程度になっているなら、その時点でビットコインは日本円で400万円です。そこから逆算して今のビットコインを見れば、それが割安だと考えることもできます。

筆者の個人的な見通し

筆者自身は8年後あたりには、1sat=1円、つまり1億円程度になっていると考えています。もちろんこれは何の保証もありません。

現在のBTC円建て価格がおよそ1,700万円ですから、CAGR(年間平均成長率)に換算すれば、約25%程度の上昇率になります。これまでのビットコインの約半分ですね。

とはいえ、その頃に1BTCは100万円に下がっているかもしれませんし、先の価格は誰にもわかることではありません。

ただし、今の法定通貨の流通量の増加を見たり、政治家が自らの知名度をマネタイズしている現状や、さらに人口統計から生産人口と扶養される側の人口の比率が開いている状況を見れば、もはや国は法定通貨を印刷して資金調達する以外の手段を持っていないことがわかります。

これが8年間どのように推移するか。

それを考えていけば、ビットコインがその時にどの程度の位置にいるのか。それぞれ頭の中である程度の具体的な想像はできると考えます。

そこから逆算し、今のビットコインを見る。それが割安と思えるなら、躊躇なく買い向かえば良いです。割高と考えるなら、買う必要は無いかもしれません。

ここでお伝えしたいのは、物事を長期的に見ることの大切さです。

結論として、投資に関しては、およそ8年位で見るのがちょうど良いのではないでしょうか。

③ 多面的に考える:日本の「当たり前」は世界の「特殊」

通貨の価値は、そこに住む人がそれをどの程度必要とするかで変わります。私たちは日本に住んでいます。

すると日本の常識やシステム、社会のインフラが世界標準だと考えがちです。しかし日本は特殊な国です。

日本の「安全」は世界標準ではない

清潔・安全・便利。

朝起きたら国の秘密警察がドアの前を封鎖して、自宅から金目のものを巻き上げていく。そんなことはありません。

狭い地域に押し込められ、高い壁で封鎖され、ことあるごとに理由をつけて領土を侵食され、反抗したら200倍にして爆撃され命を奪われる。そんなリスクもありません。

政治的な混乱が発生し、多言語を話す民族の寄せ集めであるために国家内がバラバラになり、民族紛争に突入する。そんなリスクもありません(少なくとも今は)。

このように安定した国であれば、国の管理する通貨が便利・安全です。非中央集権のビットコインへのニーズも感じないでしょう。

しかし2024年の時点で、自由民主主義国の数は88カ国にまで減少しました。権威主義的な国や地域の数は91カ国となり、民主主義を上回っています。

参考:V-Dem Democracy Report 2024 https://www.v-dem.net/publications/democracy-reports/

日本で当たり前と私たちが認識している事柄。これは世界の他の地域から見れば、とてつもなく恵まれた環境の上に成り立っているものなのです。

国家が財産を奪う主体になる時

国家そのものが個人の財産や富を奪いにくる主体となったとき。自分の富を守れる手段は限られてきます。

歴史を振り返れば、ナチス・ドイツはユダヤ人に悪のラベルを貼り、彼らの財産を組織的に没収しました。

第二次世界大戦中には、戦費調達の手段としても利用されたのです。国家が個人の財産を奪う主体となった歴史的事例として、私たちは記憶しておく必要があります。

現金は国が通貨政策を切り替えれば無価値になります。不動産は、国が財産税で没収できます(戦後の日本でも起きました)。

ゴールドは現物があるため、身につけて隠せる分量にも限界があります。

しかしビットコインは、最悪シードフレーズを記憶してしまえば、誰もそのコインを奪取できません。

もちろん、そんなBTCしか富の保存手段として機能しない世界になることは想像したくないですね。まさに北斗の拳の修羅の世界です。あくまで最悪の想定ですが、、、しんどいですね。

2025年のグローバルリスク

でも、ワールド・エコノミック・フォーラムが発表したグローバルリスクレポート2025を読む限り、そこから目を背けてばかりもいられなさそうです。

World Economic ForumのGlobal Risks Report 2025から、今後2年間の短期スパンで最も深刻なリスクとして挙げられている項目の1位は、「生成AIによる偽動画・誤報の拡大」です。

出典:World Economic Forum – Global Risks Report 2025

システムダウンのリスクシナリオ

仮に日本の主要な大手都市銀行の一つがサイバー攻撃を受けたとします。個人の暗証番号などが漏洩すれば、即座にシステムは停止せざるを得ません。

停止が発表されれば、それに乗じてアテンションエコノミー(注目を集めることが価値になる経済)のSNSでは、その停止を「銀行が資金ショートして出金停止!」と書き立てるでしょう。

取り付け騒ぎが起こり、関係ない銀行までも、その騒ぎに飲み込まれる可能性すらあります。この段階で生成AIが、日本国の首相の声明を偽造するかもしれません。

「財産税が創設されました。明日から預金金額の半分は没収されます!」

もちろんフェイク動画です。

しかしパニックになった人々の目には本物のように映ってしまい、さらに人々は一斉に銀行に殺到し、預金を引き出そうとするでしょう。

実際には何の問題もなかった銀行まで、本当の取り付け騒ぎに巻き込まれてしまうのです。

もちろん、日本国内のシステムが問題なくても、SWIFT本体がダメージを受けたら、もっと激しく大変なことになります。

SWIFTが止まると世界経済が止まる

SWIFTは約200か国・11,000以上の金融機関を結ぶ「国際送金の中核インフラ」です。もしSWIFTがサイバー攻撃でダウンすれば?

クロスボーダー決済・外為取引・国債決済・貿易金融など大規模遅延・停止が起きます。

商業取引や国際物流も停止する連鎖リスクがあります。貿易や物流ではL/C(信用状)や貿易金融もSWIFT経由です。

障害が長引けば企業の輸出入・資金回収が即座に不可能となり、実体経済の生産と流通も止まります。まさにパニック。

こんなことになる可能性がどの程度かはわかりません。しかし2016年2月には、バングラデシュ中央銀行がサイバー攻撃を受けています。

ハッカーはSWIFTシステムを悪用し、ニューヨーク連邦準備銀行にある同行の口座から10億ドルの送金指示を出し、実際に8,100万ドルがフィリピンのカジノ口座などに送金され、盗まれています。

仮にSWIFTが全面停止に追い込まれたりしたら、、、越境取引で使える方法はビットコインくらいしかなくなります。

ゴールドがある?いえいえ、タングステンみたいなゴールドと同じ比重の金属に高度なメッキをされたら、普通の人に真贋判定は無理です。

正式な真贋判定するための時間もコストも、全て実体経済速度に間に合いません。ゴールドは、実際の取引に使うには、まったくの役立たずなのです。

SWIFTのダウンで世界が仮にカオスに陥った時でも、国の制約なく自由に非中央集権で取引できる通貨。それはビットコインしかないのです。

こういうリスクも目の端っこに入れ、多面的な見方を持つ。そうすることで、ビットコインの価値を多面的に評価できるものと考えます。

まとめ:3つの視点を持ち続けること

最後に、これまでお伝えしてきた3つの視点をもう一度整理します。

1. 本質的に考える 迷った時はビットコインのホワイトペーパーに立ち返りましょう。「ナンバーワン」の強さを理解し、アルトコインの誘惑に惑わされない姿勢が大切です。

2. 長期的に考える 8年という時間軸で物事を見てみてください。過去8年を振り返り、未来8年を想像し、今の価格を評価する。72の法則を使って現実的な成長シナリオを描けば、冷静な判断ができます。

3. 多面的に考える 日本の常識は世界の非常識です。権威主義国家が増える世界で、非中央集権の価値を理解することには意味があります。システムリスクに備える選択肢として、ビットコインを持っておく価値はあるかもしれません。

この3つの視点を持ち続けることで、短期的な価格変動に一喜一憂することなく、ビットコインと長く付き合っていけるのではないでしょうか。

もちろん、これらはすべて筆者の個人的な見解です。投資助言ではありません。ビットコインへの投資は高いリスクを伴います。しかし日本円のみを持ち続けることにも、同じくらいのリスクがあります。

必要なのは、常に3つの視点を持ち続け、自分自身の頭で考えることを止めない生き方ではないでしょうか。

長い間、レポートをお読みいただき、本当にありがとうございました。皆さまのビットコインとの付き合いが、実り多いものになることを心から願っています。

ハッピー・ビットコイン!

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