5つの歯車
― 1920年代と2020年代が不気味に重なる理由
前回、トランプ=ブローカー仮説を展開しました。「決着をつけないこと」がブローカー政治の最適解であり、それは国際政治における勢力均衡の国内版だと。
今回は時間軸を100年巻きもどします。
なぜなら、まったく同じ構造が1920年代のアメリカにもあったからです。しかも「似ている」どころではありません。データで見ると、ふしぎなほど一致しています。
U字カーブ ― 100年で元にもどった格差
まず、このグラフを見てください。
米国の上位1%が国民所得全体に占めるシェアの推移です。
1928年、「狂騒の20年代」の絶頂期にこの数字は約23.9%に達しました。翌年、大暴落が起きます。
その後、ニューディール政策、第二次大戦、戦後の高度成長期を経て、数字はじわじわと下がりつづけました。1970年代には約8〜9%のボトムに達します。
そしてそこから、ふたたび上昇が始まりました。
2020年代の現在、上位1%の所得シェアはふたたび約20%を超える水準です。100年かけてU字を描き、ほぼ元の位置にもどったのです。
資産の集中はさらにはっきりしています。
上位0.1%が持つ資産シェアは、1929年前後に約25%のピークを記録しました。「グレート・ギャツビー」の時代です。
これが1970年代後半には約7%まで下がりましたが、2012年には約22%にまで回復。1920年代の水準にほぼ完全にもどっています。
偶然でしょうか。そうは思いません。
格差がここまで広がる背景には、5つの歯車が同時にかみ合う構造があると考えています。
100年の鏡 ― 5つの歯車
第一の歯車:技術革新が「新しい金持ち」を生む
1920年代、電気と自動車と組み立てラインが産業を一変させました。
ダウ平均は1921年から1929年のピークまでに6倍以上に上がりましたが、全米国民の1%未満しか株を持っていませんでした。もうかったのは、ごく一部の富裕層だけです。
今はAIと暗号通貨とブロックチェーンが同じ役割を果たしています。
新しい技術の恩恵が初期に一部の人間に集中して、「テクノロジーに乗れた人」と「乗れなかった人」のあいだに大きな格差が生まれる。コインベースやリップルの創業者たちが290億円の選挙資金を積み上げられるのも、この構造があるからです。
ポイントは、「新しい金持ち」は既存の政治システムにまだ居場所がないということです。だからお金で居場所を買う。前回のフェアシェイクの話がまさにそれです。
第二の歯車:旧産業が防衛に回る
1920年代、米国の農業人口は国民のおよそ半分を占めていました。でも「狂騒の20年代」は農家には残酷でした。
農産物の過剰生産、ヨーロッパ市場の回復、鉄道運賃の高騰。農村部では実質的に1920年から不況が始まっていたとも言われています。追いつめられた農業界は、関税による保護を政治に求めました。
今の「旧産業」は銀行業界です。
ABA(米国銀行協会)がCLARITY Actのステーブルコイン利回り条項を全力でつぶしにかかっているのは、第1回でお話しした通りです。「預金」という自分たちの生命線を守るための防衛戦。
「新しい金持ち」が攻め、「古い金持ち」が守る。そのあいだに立つ政治家がブローカーになる。この構図は100年前も今も変わっていません。
第三の歯車:政府が「小さくなろうとする」
1920年代のハーディング大統領の財務長官アンドリュー・メロンは、銀行とアルミニウムで財をなした億万長者でした。
「政府はビジネスにすぎず、ビジネスの原則で運営できるし、そうすべきだ」と述べた人物です。
今のトランプ政権の考え方とほぼ同じですよね。規制緩和、減税、政府機能の縮小。
政府が「小さくなろうとする」とき、つまり公的な再分配のはたらきが弱まるとき、政治的な影響力は「お金を出せる人」に集まります。税収ではなく献金で政策が動くようになる。これがブローカー政治の土壌です。
第四の歯車:大衆の「改革疲れ」
1920年の大統領選で、ハーディングは「正常(normalcy)への回帰」をかかげて圧勝しました。得票率61%は、当時の歴史で最大でした。
それ以前の約10年間、アメリカは進歩主義(プログレッシブ)の時代にありました。労働規制、独占禁止、食品安全法。そして第一次世界大戦。国民は改革と戦争に疲れきっていたのです。
今も似ています。
ポストコロナの社会正義運動、ESG投資の押しつけ感、いわゆる「ウォーク文化」への反動。「もういいよ、ふつうに暮らしたいよ」という空気感。
この疲労感が、改革よりも「取引」を優先する政治家を支持する心理的な基盤になります。国民が政治家に「正しいこと」を求めるのではなく、「うまくやってくれること」を求めるようになるとき、ブローカー政治にとっては最高の環境が整います。
第五の歯車:スキャンダルが「織り込みずみ」になる
1920年代のティーポット・ドーム事件は象徴的です。
内務長官のアルバート・フォールが、石油採掘権をわいろと引き換えに民間企業にあたえ、閣僚として初めて重罪で有罪判決を受けました。
でも、この事件にもかかわらず、共和党の人気は1920年代を通じてゆらぎませんでした。
今のトランプ政権の利益相反とそっくりです。暗号通貨業界がトランプ関連の政治資金団体に数千万ドルを注ぎ込み、トランプ自身がNFTやミームコインを発行し、家族がDeFiプロジェクトを運営している。
それでも支持率は大きく動かない。
腐敗がスキャンダルとして「機能しなくなる」とき、ブローカー政治の歯止めが外れます。有権者が「みんな多少は汚いでしょ」と受け入れてしまえば、政治家は献金者との取引をより大胆にできるようになります。
5つが同時にそろうとき
整理しましょう。
1. 技術革新が「新しい金持ち」を生む。
2. 旧産業が既得権益を守るために防衛に回る。
3. 政府が縮小志向になる。
4. 大衆が改革に疲れる。
5. スキャンダルへの感度がにぶくなる。
この5つが同時にそろったのが1920年代であり、そして今です。
1920年代のこの構造は、1929年の大暴落で崩壊しました。では、2020年代も同じ結末をむかえるのか。
その問いに答える前に、もう一つ見ておくべきものがあります。
1930年代から1980年代にかけて、格差のU字カーブが底を打っていた時期。あの時代、何が格差の拡大をおさえていたのか。
実は、それは政府の善意ではありませんでした。「共産主義」という外部からの脅威が、エリート層に「分け前を渡さなければぜんぶ取られる」と思わせていたのです。
次回は、その「お化け屋敷」が閉館した日の話をします。
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本連載は、市場の研究とその情報の提供を目的としたものです。投資についての判断は、ご自身の責任でお願いいたします。
ココスタ・トレーディングカレッジ / 佐々木 徹

