第2回「Follow the Money ― ブローカー政治家の損益計算書」

連載 ― 水面下の力学 | 第2回 / 全8回

Follow the Money
― ブローカー政治家の損益計算書

前回、CLARITY Actが止まっている理由は「ステーブルコイン利回り」をめぐる銀行vs暗号通貨の預金戦争だとお話ししました。

そして暗号通貨側が1億9,300万ドル、銀行側が約400万ドルという、49倍の火力差があることも。

今回はその「弾薬」を受け取る側、つまり政治家の計算式を読みます。

一つ、仮説を置かせてください。

トランプは政治家ではなく、ブローカーである。

この仮説を受け入れた瞬間、政策の行方がおどろくほど予測可能になります。

ブローカーの行動原理

政治家が「正しいことをする」と信じている人は多いです。

もちろん、理念で動く政治家もいます。でもここでは、あえてもう一つの視点を試してみましょう。

ブローカーの行動原理はシンプルです。「誰がお金をくれるかで、行動が決まる」

政策を「正義」ではなく「取引」として読む。それだけで、ニュースの見え方がまったく変わります。

トランプ大統領は2025年1月、連邦機関に暗号通貨に対してより好意的な姿勢を取るよう指示する大統領令に署名しました。

米国を「暗号通貨の世界の首都」にすると宣言しています。

2026年3月3日にはTruth Socialで「銀行が法案を人質に取っている。成立しなければ暗号通貨業界は中国に流出する」と投稿しました。

なぜここまで暗号通貨寄りなのか。

ブローカー仮説で読めば、答えは明快です。

前回ご紹介したフェアシェイク(Fairshake)は、暗号通貨業界が政治家を支援するために作った政治資金団体です。コインベース、リップル、アンドリーセン・ホロウィッツの3社を中心に、約290億円の資金を集めています。企業や個人から制限なく集金できる「スーパーPAC」と呼ばれるしくみで、近年の米国政治で大きな影響力を持つようになりました。

このフェアシェイクとは別に、暗号通貨関連企業はトランプ関連の政治資金団体にも合計2,100万ドル以上を直接拠出しています。

つまりトランプ個人にもお金が流れ、フェアシェイクを通じて議会全体にもお金が行き渡る。二重の導管構造です。

お金の流れを追えば、行動が予測できる。これがFollow the Moneyの原則です。

弾薬の流れ方 ― 導管としての政治資金団体

では、フェアシェイクの資金が実際にどう流れているかを見てみましょう。

暗号通貨業界の献金フローと政治介入メカニズム

暗号通貨業界の献金フローと政治介入メカニズム

左側の3社からフェアシェイクに資金が流れ込み、そこから2つの傘下組織に分配されます。

共和党向けの「ディフェンド・アメリカン・ジョブズ」と、民主党向けの「プロテクト・プログレス」。

ここが大事なポイントです。両方の党に資金を配っている

2024年の実績では、共和党候補に約5,300万ドル、民主党候補に約3,340万ドル。完全にイーブンではないですが、かなりバランスを取っています。

どちらが政権を取っても、自分の「クライアント」が議会にいる状態を維持できる。ブローカーにとって理想的な構造です。

「攻める力」と「止める力」

この資金力がもっとも端的に表れたのが、前回もふれたオハイオ州の上院選挙でした。暗号通貨法案をいっさい通さなかった上院銀行委員長を落とすために、4,000万ドル(約60億円)を投入し、落選させています。

一方で銀行業界は、前回お話しした通り、年間7,700万ドルのロビイングと半世紀にわたる関係性ネットワークで「法案を止める力」を発揮しています。

実際に2026年1月のマークアップ延期は、銀行側の反発が数時間で委員会を動かした結果でした。

暗号通貨は「攻める力」。銀行は「止める力」。武器の種類がまったく違うのです。

ブローカー政治という仮説の核心

さて、ここからが核心です。

トランプの立場で考えてみましょう。暗号通貨業界からは大量のお金が流れ込んでいます。だから暗号通貨に好意的な発言をします。

一方で、銀行業界を完全に敵に回すわけにはいかない。銀行は国家インフラであり、預金が不安定になれば政権の足元がゆらぎます。

ブローカー政治にとっての最適解は何か。

「決着をつけないこと」です。

暗号通貨業界に「もう少しで法案が通りそうだ、もっと応援してくれ」と思わせつづける。

銀行業界にも「あなたたちの声はちゃんと届いている、安心してくれ」と伝えつづける。

双方が「もう少しで勝てる」と信じている状態。この状態こそが、ブローカーにとってもっともお金が流れつづける均衡点です。

これはかなり国際政治っぽい発想です。

ひと言でいえば、「どちらかを完全勝利させるより、両方が”もう少しで勝てる”と思う均衡を保つほうが、自分の影響力・仲介価値・取り分がつづく」というロジック。国際政治では勢力均衡やオフショア・バランシングと呼ばれます。

国際政治の言葉で言い換えるなら、「対立を、解決すべき問題ではなく、影響力を生む資産として扱う」発想です。

だから、当事者から見ると仲介者に見えても、実際には「均衡の管理人」であり、場合によっては「決着回避の受益者」でもあります。

これを国内政治に縮小して再現しているのが、今のCLARITY Actをめぐる構図だと考えています。

では、この構造はいつから存在するのか

「政治家がお金で動く」という話を聞くと、現代の腐敗に特有の問題だと感じるかもしれません。

でも実は、まったく同じ構造が100年前にもありました。

新しい技術で巨万の富を得た「新しい金持ち」と、既得権益を守ろうとする「古い産業」が、政治家を挟んで綱引きをする。1920年代のアメリカで起きていたことと、今起きていることは、ふしぎなほど似ています。

次回は、その「100年前のデジャヴ」をデータで見ていきます。

上位1%の所得シェアが描くU字カーブ ― 1928年のピークと2020年代の現在が、ほぼ同じ水準に達しているという事実から。

政治はお金で動く。しかも、「決着をつけないこと」がいちばんの利益になる。では、この構造はいつから始まったのか?

次回:5つの歯車 ― 100年前のデジャヴ

1920年代と2020年代が重なる理由。上位1%の所得シェアが描くU字カーブが語る、ふしぎな一致。

本連載の全8回は、ビットコイン週刊フォーキャストで先行公開中です。
7日間無料でお試しいただけます。

▶ 全編を先行で読む(7日間無料)

本連載は、市場の研究とその情報の提供を目的としたものです。投資についての判断は、ご自身の責任でお願いいたします。
ココスタ・トレーディングカレッジ / 佐々木 徹

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です