ビットコインのハッシュレートが過去最大を突破し上昇し続けている。冴えない値動きが続くなか、なぜビットコインのブロックチェーンには、ここまで大量の計算能力が供給をされているのだろう?背景には、世界の中銀が緩和に舵を切り直すしかないという背景が見て取れる。こちらの記事で深掘りをしてみたい。
ビットコインの採掘コストは、一般的な電気代を支払ってマシンを回せるレベルが、およそ24,000ドル程度と推定されている。
ただし、これはマラソン・デジタル社の財務諸表からアタリを付けだだけの数字であり、減価償却費も金利負担も考慮に入れていない。
つまり「一般的に電気代が支払える」という程度の価格レベルであり、とても今からマイニング事業を立ち上げて参入しようという動機にはなり得ないレベルである。
もちろん、採掘コストを考慮しない類のプレイヤーも中にはいる。入手する電気コストが0の場合などだ。たとえば減価償却が終わった水力発電施設などを持っていれば、あとは「回すだけ得」である。
さてこの激しいハッシュレートの上昇は、何を意味しているのだろうか。
ポジティブに考えるなら、ビットコイン情報に精通しているマイニング事業がビットコインの将来価格に強気な見方をしている、、、と理解することもできる。
たとえばインサイダーである経営者が自社株を大量購入するとき、それは市場が織り込んでいない強気な材料が今から出てくる、、、という考え方に近い。
一方、ネガティブに考えるのであれば、マイニングが極めて高リスクな事業であることを表しているとも言える。
マイニング事業者は、他の用途に転用できないASICという採掘機能に特化したマシンを購入済みである。あとは「回す以外の選択肢なし」という事情も持っている。
この場合、マイナーは電気代を支払うために定期的に採掘したビットコインを売却し続ける必要があり、それが一方通行の現物である限り、上値を長期的に抑え込む役割を担うことになる。
現状がどちらなのかといえば、その答えは市場が決めることだとしか言えない。だが個人的には、ポジティブな側であると考えている。
その背景の一つは、やはり英国中銀の動向である。
ビットコイン研究所の月曜レポートに寄稿した内容に詳しいが、金融引き締めを続けていくと、結局はどこかで市場がNOを突きつける地盤にぶち当たることとなる。
参考:
Vol.178 一周回って日本は世界の先頭に ~ 世界の中銀に残された手はイールドカーブ・コントロールのみ|アーサー先生の最新記事から一部をご紹介
https://coinkeninfo.com/yieldcurve-control-bitcoins/
世界で最長の歴史を持つ英国債権市場。ここで年金を預かるプレイヤーが無制限のロスを計上する瀬戸際に追い込まれ、英中銀は国債の緊急買入れに舵を切るしか無くなった。
英中銀の国債買入れがなければ、英国の年金基金はREKT確定である。国債の目減りから証拠金不足に陥りマージンコール発生も支払い原資はなく、膨大なマイナスを残して清算するしか道はない。
つまり中銀の優先順位は、インフレ対処よりも金融のシステムリスク回避にあることを宣言したに等しい。そして市場は、英国の事例が単なる一国にとどまるものではない方に実弾を傾けている。
ビットコインのハッシュレート推移には、それが如実に現れている。以下のチャートは英国の30年金利利回りとハッシュレートを比較したものである。
9月後半にハッシュレート急上昇を開始した時期と、英国30年金利が急騰した時期とが一致していることが明らかではないだろうか。
ビットコインのマイニング事業に実弾を投下しているプレイヤーは、アナリストでも教授でもない。自らの資金をリスクに晒し、歴戦の生存競争を生き抜いてきた猛者達である。
前出のチャートは、その猛者達が英国の混乱を一過性のものと見ていないことが明らかである。
遠からず世界の主たる中銀に同じことが飛び火し、結果的に金融の引き締めを窓から投げ捨てるしか無くなること。その時に富を残せるのは、価値を国家(=中央銀行)に依存している法定通貨ではないこと。そこに向けて資金を配分しているようにしか見えないのである。
ビットコインは最悪の通貨かもしれない。ただ法定通貨が単に票田(英国の場合は年金受給の高齢者)を救済することに特化したものであると市場が理解したとき、資金を逃す先の選択肢は限られている。
以上は2022/10/12配信のクリプト通信(コースはこちら)のイントロダクションとして上梓するものである。