唯一、手を離さなかった絆。それさえほどける日が、成長です(第3回・最終回)

前回、ひとつだけ「覚えておいてください」とお願いしたものがありました。

壁の裏の配管。ビットコインとゴールドが、同じ棚に並びながら、別々の蛇口から水を飲んでいる——あの話です。

今日は、そこへ帰ってきます。そして、この三回の旅を、いちばん大事な一行で締めくくりましょう。


まず、2026年です。

この年、ビットコインに長く貼られていた名前が、いっせいに剥がれ落ちました。

ナスダックとの連動が、マイナスへ。半導体も、マイナス。リスクオン時代の顔だったエヌビディアでさえ、ほぼゼロまで薄くなりました。そして前回見たとおり、ゴールドとも、マイナス。

久しぶりに、ビットコインは「ハイテク株」でも、「リスク資産」でも、「デジタルゴールド」でもなくなったのです。

どの名前も、もう合わない。では、このときのビットコインを、市場は何と呼んだか。

「グローバル流動性の体温計」です。

うまい名前だな、と思います。特定の資産への賭けではありません。すべての資産を動かしている、潮の満ち引きそのものへの賭け。そういう意味です。

ここに、この物語のいちばん大事な教訓があります。

連動というのは、いつ終わるとも書いていない約束なのです。しばらくのあいだは、まるで「法則」のように効きます。だからこそ、人はそれを永遠の真理と取り違えてしまう。

でも、いま効いていることと、これからも効き続けることは、まったくの別ものです。「この連動は、いつまで続く約束なのか」——そう問わずに寄りかかった瞬間に、ビットコインはまた、静かに相手を変えていきます。


さて、ここで話が終われば、教訓はずいぶんシンプルになります。「ビットコインは、結局なにひとつ掴まない」と。

でも、それは——とても大事なところで——間違いなのです。

たったひとつだけ、連動の強さ——相関の数値そのものですね——が、ずっと右肩上がりに増していって、一度もゆるまなかった関係があります。値段の話ではありません。ふたつがどれだけ同じ方向に動くか、その「揃いっぷり」が、年を追うごとに強くなっていった、ということです。

マイクロストラテジー(MicroStrategy、いまは社名を「Strategy」に変えた、アメリカの上場企業です)との連動です。

2017年ごろ、このふたつは、ほとんど一緒に動いていませんでした。

ところが2020年、この会社が、ビットコインを自社の財務(バランスシート、つまり会社の資産表です)に乗せ始めました。

そこから連動は、垂直に立ち上がります。2022年の暴落のどん底では、相関がプラス0.98。1.0が「完全に同じ動き」ですから、これはもう、ほぼ一つの資産として動いていた、ということです。そして数年後の2026年も、固く結ばれたまま。

この線だけは、ふらつきません。なぜなら、気分ではないからです。バランスシートだからです。

企業がビットコインを抱え込んだ、その瞬間が、文字どおりデータに刻印されているのです。


だから、正しい読み方は「何も残らない」ではありません。

二種類の関係が、同時に走っている、ということです。

来ては去る関係。これは、その週ごとの市場の気分です。リスクオン、リスクオフ、いま流行りのテーマ。

居座って固まる関係。これは構造です。本物の採用、本物の配管。ノイズの下で、静かに硬くなっていくもの。

だとすれば、腕の見せどころは、「ビットコインが本当は何と連動しているか」を当てることではありません。どの絆がいま固まりつつあって、どの絆がもう蒸発しかけているのか。その見分けのほうなのです。


そして、ここまで来ると、ひとつの答えが浮かび上がります。

名前も数字も動き続けるなら、「今このとき、何と連動しているか」を追いかけるのは、終わりのないランニングマシンです。あるラベルが「これだ」と腑に落ちたころには、市場はもう、次へ移ってしまっている。

本当に切れたことのない関係は、実は「資産」ではないのです。

すべての資産の下を流れている潮——ドルの流動性、つまり世界に出回るお金の量の、満ち引きそのものでした。

2020年に堰を切ったのも、これ。ゴールドとビットコインを引き離した「別の蛇口」も、これ。「流動性の体温計」が読んでいたものも、結局これ、ひとつだったのです。

ビットコインのパートナーを名指しするのは、もうやめましょう。代わりに、水位を見る。

そうすると、これまで混沌に見えていたものの多くが、ふいに信号に見えてきます。


ここで最後に、ひとつだけ、問いを残しておきたいのです。

あれほど固い、Strategyとの絆。あれは、本当に「永遠」なのでしょうか。

げんに、その兆しは、もう出はじめているのかもしれません。

かつて「ビットコインを絶対に売らない会社」として、誰よりも固い土台に見えていたStrategy。けれどいま、市場はその複雑になりすぎた構造に、少しずつ飽きはじめています。

ビットコインを財務に抱える「トレジャリー企業」——同じ戦略をとる会社のことです——が次々に現れ、かつてStrategyだけが背負っていたプレミアム(割増しの期待値、ですね)も、今やディスカウントに転落しています。

かつては上昇を加速させる燃料に見えたこの絆が、いまはむしろ、相場の重し(おもり)として意識されているのです。

いちばん盤石に見えた絆でさえ、市場の関心は、静かに移ろいはじめている。

でも、それは、おかしなことではありません。むしろ、これまで見てきたビットコインの動き——パートナーを変え続ける、あの動きと、ぴたりと整合しているのです。

ここまで見てきたとおり、ビットコインは、どんな名前も、どんな連動も、いつかは手放してきました。デジタルゴールド、リスクオン、マジック・インターネット・マネー。どれも一度は本当で、どれもいつか、剥がれていきました。

だとしたら——いつか、あのバランスシートの絆さえすっかりほどけて、ビットコインが、いまはまだ名前もない別の何かと、並んで歩き始める日が来ても、なんら不思議はありません。

そして、もしその日が来たとして。

それは、裏切りでも、弱さでもありません。それこそが、成長なのです。

連動がひとつに固まり、名前がひとつに決まる日。それは、ビットコインが「大人になり終えた」日です。システムの中に、自分の決まった椅子を見つけて、もう動かなくなった日、ということですね。

データを見るかぎり、その日は、まだ来ていません。

この落ち着きのなさは、ビットコインの弱点ではないのです。14年ぶんのデータの中で、いちばん希望に満ちた一行——そう読んでも、いいのかもしれません。

だからこれからも、ビットコインが次に誰と手をつなぐのかを、私たちは面白がって眺めていけると良いですね。それはきっと、この資産がまだ若くて、まだ伸びている、という何よりの証拠なのですから。

※この記事は情報提供を目的としたものです。特定の銘柄や投資を推奨するものではありません。最終的なご判断は、ご自身で行っていただければと思います。

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