最終回「CLARITY Actは中途半端に着地する ― 現実は常にグラデーション」

連載 ― 水面下の力学 | 第8回(最終回) / 全8回

CLARITY Actは中途半端に着地する
― 現実は常にグラデーション

7回にわたって積み上げてきた話を、最終回で一つの仮説にまとめます。

第1回の問い ― CLARITY Actはどう着地するのか ― に答えを出す時間です。

着地の仮説:「誰も完全には勝てない」

ステーブルコイン利回りの3つの妥協案

CLARITY Actにおけるステーブルコイン利回りの妥協シナリオ

第2回でお話ししたブローカー政治のロジックをあてはめると、着地点が見えてきます。

ステーブルコインを持っているだけで利子がつく仕組み(静的保有への利払い)は禁止される。ただし、ステーキングやDeFi(分散型金融)への参加など、何かしらの活動をともなう報酬は認められる。

これがブローカー政治にとっての最適解だと考えています。

なぜか。

銀行にとっては、「ステーブルコインが普通預金の代わりになる」という最悪のシナリオが回避できます。預金がまるごと流出するリスクがやわらぐ。銀行は「守れた」と言えます。

暗号通貨の業界にとっては、DeFiのイノベーション空間が法的に守られます。活動的な運用には利回りを提供できる。こちらも「勝った」と言えます。

どちらも「完全勝利ではないけれど、一番大事なところは守れた」と主張できる着地点。これが第2回で話した「均衡の管理人」としてのブローカーにとって、もっとも都合のいい結果です。

「中途半端」は構造の帰結

この着地は「中途半端」に見えるかもしれません。実際そうです。

でもこの連載を通じて見てきた通り、中途半端は偶然ではありません。構造がそうさせるのです。

第3回の1920年代を思い出してください。新しい金持ちと古い金持ちの綱引きの中で、政策はいつも中途半端な妥協に落ち着きました。関税は「農家が満足するほど高くはないけど、工業界が怒るほど高くもない」水準に設定された。

第4回の冷戦期。最高税率91%は「共産主義者が満足するほど平等ではないけど、資本家が反乱を起こすほど重くもない」水準でした。

ブローカー政治は、構造的に中途半端な結果を生みます。

なぜなら、どちらかが完全に勝ってしまったら、ブローカーの存在意義がなくなるからです。「もう少しで勝てる」と両方に思わせ続けることが、仲介者としての価値を最大化する。第2回で話した「オフショア・バランシング」の国内版です。

だから現実は、白か黒かではなく、常にグラデーションになる。

すべての金融資産は、政治の影響を受ける

さて、ここからが結論です。

ここまでの7回で見てきた構造をひと言でまとめると、こうなります。

どんな金融資産も、程度の差はあれ、政治的な取引の対象になりうる。

資産の政治的脆弱性スペクトラム

資産の「政治に左右されやすさ」スペクトラム

預金は銀行と政府の都合で凍結されうる。株は税制と規制で価値が揺さぶられる。不動産は固定資産税と都市計画で左右される。

ステーブルコインの利回りですら、いまCLARITY Actという政治プロセスの中で「OKかNGか」が決められている真っ最中です。

暗号通貨は「分散型だから政治に左右されない」とよく言われます。でも第1回で見た通り、取引所は規制の対象ですし、ステーブルコインは法律の枠組みに組み込まれつつあります。ゴールドだって、1933年にアメリカ政府が民間の保有を禁止した歴史があります。

つまり、「政治の手が届かない金融資産」は、厳密には存在しないと考えた方がいいです。

では、ほんとうに没収できないものは何か

政治的取引の対象にならない資産とは

政治的取引の対象にならない「資産」

前回の結論を、もう一度。

学ぶ方法を体に持った自分自身。

第6回の寺子屋の話で、「読み書きそろばん」が変化への対応力をつくることを見ました。

第7回で、「仮説→検証→修正」のループを30年間回しつづけた人だけが結晶になることを見ました。

この「結晶型の知性」は、文字どおり没収できない資産です。

政府はあなたの銀行口座を凍結できます。取引所はあなたの暗号通貨を差し押さえられます。税務署はあなたの不動産に担保をつけられます。

でも、あなたの頭の中にある30年分の仮説と検証のつみ重ね ― マーケットの構造を読む力、インセンティブを解析する力、自分のバイアスに気づく力 ― を取り上げる方法は、この世に存在しません。

それは金融資産ではないけれど、いちばん確実な「資産」です。

この連載の結論

全8回を通じて、一本の線を引いてきました。

  • CLARITY Actが止まっている理由(第1回)
  • ブローカー政治の構造(第2回)
  • 100年前との不気味な一致(第3回)
  • 共産主義というお化けが作っていた安全弁(第4回)
  • ソ連がコンピュータで死んだ理由(第5回)
  • 寺子屋の識字率(第6回)
  • 結晶と化石のわかれ道(第7回)
  • 着地の仮説と、没収できない資産の話(今回)

すべてを貫くメッセージは一つです。

お金は政治のツールになる。だからこそ、「お金じゃない力」を育てておくことが、長い目で見たときの最強の戦略になる。

ビットコインやゴールドが、政治から距離を置ける設計になっているのは事実です。でもそれらも完全にフリーではない。歴史がそう教えてくれています。

いちばん確実なのは、自分自身のアップデートを止めないこと。

この連載が、あなたの「仮説」の一つになれたらうれしいです。

同意する必要はありません。「こういう見方もあるのか」と頭の引き出しに入れておいて、これから起きることと照らし合わせてみてください。

CLARITY Actが中途半端に着地するのか、それとも予想外の展開を見せるのか。その結果が出たとき、この仮説を修正する材料になります。

ループを回しつづけましょう。

連載「水面下の力学」全8回 完

いちばんうばえない資産は、学ぶ方法を体に持った自分自身。この連載が、あなたの仮説の一つになれたならうれしいです。ココスタでは毎週、水面下の力学を読み解いています。

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📚 連載:水面下の力学 ― 100年の繰り返しから見える、人間とお金の本性

第1回「銀行が守っているのはあなたの預金ではない ― CLARITY Actが止まっている本当の理由」
第2回「Follow the Money ― ブローカー政治家の損益計算書」
第3回「5つの歯車 ― 1920年代と2020年代が不気味に重なる理由」
第4回「お化け屋敷が閉館した日 ― 共産主義の脅威と修正資本主義の正体」
第5回「ソ連はコンピュータで死んだ ― 委託販売の本屋が消える理由」
第6回「寺子屋の識字率がペリーに勝った ― 今の時代のリテラシーとは?」
第7回「老害か知恵者か ― ループを回したかどうかで決まる」
最終回「CLARITY Actは中途半端に着地する ― 現実は常にグラデーション」

本連載は、市場の研究とその情報の提供を目的としたものです。投資についての判断は、ご自身の責任でお願いいたします。
ココスタ・トレーディングカレッジ / 佐々木 徹

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